主人公の「生と死」に対する覚悟
こちらの日記に便乗して私見を書いてみることにします。
id:USA3:20060318#p1
この中に、こちらの日記に対してコメントされてる部分があります。以下、主にそのあたりに対して反応します。
id:straizo:20060227#1141043489
伏せ字も活用しますが、なんだかんだと伏せ字箇所以外にもネタバレがあるであろうことを先に書いておきます。
たしかに思い返してみると、武自身はほとんど一度もあと一歩で死ぬ、というような状況に追い込まれたことはないですね。
佐渡島攻略時に単身で陽動に志願したときに死にそうになる場面がありました。追いついた伊隅大尉に救われましたが。
志願前に茜や柏木と話した内容も鑑みれば、
現実に「いかに死ぬか」を問われる状況に置かれたときどういう行動をとるか
というのを語っているのがこの部分かと思います。
ハナから死ぬつもりで志願したわけではないのはもちろんだが、自分が死ぬはずがないとタカをくくっていたわけでもない。人類勝利の鍵を握る兵器と自分の最愛の人を守るためには誰かが何かを為さねばならない。その1つの手段が「陽動」であり、あの状況でそれを無事に成し遂げる可能性が最も高いのは、小隊長である水月を除けば、客観的に見て自分＝白銀武である。
このときの武の精神状態は、オリジナルハイヴでのヒロイン5人の心境に近いものがあるでしょう。想いの対象がヒロインズは武であり、武は純夏であっただけ。
もう一つ。
自分が死地に赴く覚悟と、大切な人を死地に追いやる覚悟は質が全く異なるものであることを承知で乱暴なことを言えば、この作品では「後者の方が重い」という意識が根底にあるように思えてなりません。それを象徴する台詞は結構たくさんあると思うのですが、そのうちの1つが、EX世界から帰ってきたあと00ユニットの説明をするときのAL夕呼のこんな台詞。
「これからあんたと私が進む先には……死ぬことすら生ぬるいと感じる程の地獄が待っているわ」
実際、EX世界で自殺まで思い詰めた上でそれを乗り越えた武にとって、自分の死そのものは既に恐怖の対象ではなくなっているでしょう。その上で、自分が安易に死んではならないと言うことも理解している。
戻ってきた武は、既に、「自分がいかに生きるか」という点について、確かな覚悟を持っていると思うのです。その「生きる」ことの終着点たる「死」がどのような形であるべきか、という点においては、もう迷わないのではないでしょうか。武には、その次のステップとして「最終目標達成のために、いくら心が痛もうと自ら手を汚す覚悟があるか」が問われていると思います。
「因果とは無関係に……あんたの行動の結果、人が死ぬという状況に、繰り返し繰り返し直面するはずよ……」
「目的を達成するために、他人の死を容認しなければならない場面も、嫌と言うほどあるはず」
「あんたはその度に、使命と倫理の間でもがき苦しむ事になると思う」
「あんたは……それに本当に耐えられるのかしら」
「その時あんたは……世界を救うための選択を冷酷に選び続けることができるのかしら」
武が、EX世界に逃げ帰ったあと、やるべきことを見据えてAL世界に戻ってくる直前のEX夕呼の台詞ですが、これを行動で示せるかどうかが主人公の成長をはかるポイントだ、と思うわけです。武自身が死地に赴く覚悟を示すシーンが佐渡島の1件だけである一方で、これでもかと言わんばかりに他の多くの人々が死んでいく展開なのも、その視点での主人公の成長を見せるためでしょう。
以下余談です。
主人公の成長を見せる場面の究極が、武自身が冥夜に対して直接引導を渡す最後のシーンであることは間違いないと思います。なので、あそこで見せた武の躊躇は私も本当に残念です。最良のタイミングはこっちの都合など待ってはくれないものだ、ということはage自身が月詠さんあたりを通じて語っていたことなのに。冥夜の状況がわからないうちは最良の選択肢を探そうとするのは間違っていないけれども、BETAによる浸食が明らかになってからの躊躇は、物語としても失敗しているのでは。言うまでもなく私見ですが。
Fate/stay night桜シナリオの最終局面で、士郎が黒セイバーに対してとどめを刺すか否かの選択を迫られたときのように、プレイヤーに選択させた上で唯一のバッドエンド（武は捕獲された上で人類敗北）を用意してもいいくらいじゃないか、とすら思います。
余談をもう1つ。
id:straizo:20060227#1141043489 さん曰く：
だって最後の場面、もし主人公と冥夜が逆の状況だった場合、あの時点で因果導体から解放されたことを知らない主人公は、絶対に撃てとは言えないんだから。
結論のでない仮定の話ですが、「撃て」というんじゃないか、と個人的には思います。自分が捕虜となった上に人類の希望たる兵器が潰されることこそ最悪のシナリオで、それに比べれば、ループしようがするまいが自分が上位存在を道連れに死ぬことの方がまだマシではないですかね。
USA3さんの日記からたどっていったstraizoさんの日記のこのあたりの記述はいろいろと興味深くて、同意する部分もコメントしたくなる部分も多々ありましたが、とりあえずこのテーマでは以上です。気分を害されないことを祈りつつこの辺で。
